抗菌ハンドソープのリスク

 

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:先日(2012/8/13)、カリフォルニア大学デービス校からアメリカ合衆国の全米科学アカデミー(the National Academy of Sciences of the United States of America)に発表されたんじゃが、ハンドソープなどの抗菌製品に含まれる成分、トリクロサンが筋肉の収縮機能を阻害するようなんじゃ。 トリクロサンは、ハンドソープや消臭剤、うがい薬、歯磨き粉、寝具、衣類、カーペット、おもちゃやゴミ袋などの抗菌製品に含まれており、最近では、抗菌・防菌製品の要請の高まりとともにプラスチック製まな板,スポーツ用品,靴,家具などの多数の製品でますます使用されてきている。 2005年における世界の年間生産量が約1,500トン,そのうちの450トン超がヨーロッパとアメリカでパーソナルケア製品に使用されているとのことじゃ。 このトリクロサンが細胞レベルで筋肉の収縮を妨げ、実験では魚の泳ぎが遅くなり、マウスの筋力の低下が確認されたというんじゃ。

クマ:へぇ〜。けど、世界各国の保健衛生機関は、製品化に当たって相当厳しい基準で、安全審査を行っているように聞いたけど、その網をくぐり抜けたの?

Koby:いや、そうではない。各国の保健衛生機関が行っている審査はヒトつまり人間への影響が主で、それは厳しい審査がある。そして、それに基づいて使用制限が決められているので、ヒトにとってはトリクロサン含有製品を使用しても安全と言える。 しかし、最近トリクロサンの使用量が増加しており、使用後の下水などへの排出による影響が非常に心配されているんじゃ。

クマ:そうなんだ。ということは、魚への環境ホルモン的な影響だね。

Koby:そうじゃな。しかし、それは地球全体の生態系への影響にも関係するから、排出量の多い化学物質は、特に注意が必要じゃ。 また、抗菌効果は最近のセールスポイントでもあるんじゃが、意味のない抗菌仕様は避けるべきじゃな。

クマ:ソウダネ。ここのところは、良く良く考えないといけないような気がするね。

Koby:全くそうだな。ついでに、抗菌ということについて、もう少し詳しく考えてみよう。

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この図は、抗菌効果のある天然・人口の物質についてのマッピングを示したものじゃが、トリクロサンはこの分類の逆性石鹸に該当する。

効果は、殺菌的なんじゃが、実は天然成分にも、エッセンシャルオイル(精油)なんかも殺菌作用があるんじゃな。「2.野菜(植物)の毒素」でも紹介したように、植物は動けないので、自分の身を守るために防御用の化学物質を発達させたんじゃ。殺菌的な効果がそれぞれあるが、自然界のレベルの量でバランスが取れているともいえる。

しかし、人口の殺菌剤の大量使用でこのバランスが崩れると大変なことになるんじゃ。 また、抗生物質などは静菌的(菌を死滅させるほどの力は無く、ただ増殖を抑えているだけの作用)じゃが、特定の細菌に対して有効なところが、抗菌剤やエッセンシャルオイルと違うところじゃ。 抗生物質についても、同様の多量使用は耐性菌の増加の面で、同じく大きな問題となっているんじゃ。

クマ:自然のバランスをできるだけ崩さないということは、重要だな。良く分かりました。



参考文献
Karen Finney, UC Davis Health News Service, (916) 734-9064,
http://www.ucdmc.ucdavis.edu/publish/news/newsroom/6872

薬用石鹸成分,トリクロサンの生物への影響
http://lib.ruralnet.or.jp/libnews/nishio/nishio200.htm