放射線があたったらどうなるの

 

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>

クマ:放射線のでき方と、生命誕生のときの話は、わかったけど、放射線が「からだ」にあたるとどうなるの?

Koby:いきなり、核心にせまってきたな。

クマ:はなしの順番からすると自然だと思うけど。

Koby:そうだな。それじゃ、これも、調査結果を総動員して説明してみよう。

クマ:ソウコナクッチャ。

Koby:まず、放射線がからだに与える影響が大きく二つに分けられるんだ。
一つ目は、ある強度以上の強い放射線が、細胞中のDNAを修復不可能なまで傷つけ、多量の細胞が死んじゃう場合で、急性効果といわれる致命的な場合なんだ。
この強度は、1シーベルトより上で、日本での普通の人(一般公衆)の年間線量限界である1ミリシーベルトの1000倍の量をいっぺんに浴びたようなときに起こる、ひどい場合だ。

東海村JCO臨界事故のときは、一番低い線量を浴びた人で4シーベルトで、一時白血球がなくなったけど骨髄移植でなんとか回復したんだ。

クマ:強い放射線は、こわいな。

Koby:もう一つは、晩発(ばんぱつ)効果といわれる場合で、1シーベルトより低い放射線の場合だ。
クマは、人間ではないので、人間の基準が当てはまらないと思うが、理屈はおなじだから。

クマ:そうだった。ぼくは、放射線に強いんだった。

Koby:低い放射線を浴びたときに、おもに関係する放射線はガンマ線となるんだ。
放射線には、種類がいっぱいあるんだが、粒の大きいアルファ線は紙も通れないし、電子であるベータ線はアルミ箔も通ることができないので、人体に影響を与える主流はガンマ線ということになる。

クマ:粒々の大きな放射線は強い強度のときは、影響あるけど、粒々の大きい弱く飛んできた放射線は体のなかまで、なかなか入れないということかな?

Koby:まぁ、簡単にいうとそういうことかな。

Koby:さて、本題にもどるとしよう。ガンマ線は、実は光や紫外線や電波と同じ電磁波と呼ばれるエネルギーを持ついわば波の一種なんだ。
ガンマ線は、その中でも波の幅(波長)がちいさく、体のなかへ入ることができる。
体のなかに入ったガンマ線は、体を構成している種々の分子に衝突するんだ。
衝突された分子は、ガンマ線からエネルギーをあたえられ、反応性があがるんだ。
もう少しくわしく説明すると、分子を構成する電子にエネルギーが注入され、電子の一部が飛び出し、反応性にとむラジカル物質を作るんだな。

クマ:放射線のエネルギーで、分子が超元気状態になったと思えばいい?

Koby:まぁ、そんなところかな。
この超元気状態は、すべての分子で起こりえる状態なんだが、ヒトの体の場合は約70%を占める水に主に作用して、活性酸素(ヒドロキシラジカル)を作るんだ。
この、超元気な活性酸素が問題なんだ。

クマ:どういうこと?

Koby:超元気ということは、反応性が強すぎて、ほかの分子のつながりを切ったり、形を変えたりするんだ。
これがそのまま、遺伝子のもとであるDNAに作用すると、DNAを傷つけ、ガンのもとになったりする。

クマ:これは、大問題だね。

Koby:そうだね。ところが、この活性酸素は、生物の活動には無くてはならないエネルギーを生産しているミトコンドリアで、大量に発生してるんだ。

クマ:どういうこと?

Koby:ミトコンドリアでは、酸素と有機物(ATP)を燃焼(酸化)させ、エネルギーを作り出しているんだが、このミトコンドリアで消費される酸素のうち、2〜5%が活性酸素を作っていると言われているんだ。
また、エネルギーを多量に発生させる、つまりハードな運動をしたときにも、活性酸素は出来ているんだ。

クマ:そんなに、活性酸素ができたら良くないんじゃないの。

Koby:そう、良くないんだ。 しかし、ここからが、生物のすごいところなんだが、活性酸素を無害化するしくみがあるんじゃな。 クマ:良かった〜〜。

Koby:これが、体内の種々の抗酸化物質の役目なんじゃ。
そもそも、生命が誕生して酸素をつかってエネルギーを得始めたときからの永遠の課題みたいなもので、全ての生物に共通するものじゃな。

クマ:ぼくにも、あるの。

Koby:当然。

Koby:ヒトでは、この分野の研究は盛んに行われていて、水溶性のものでは、有名なビタミンC、グルタチオン(グルタミン酸、システイン、グリシンが、この順番でペプチド結合したトリペプチド)、あの健康診断で悪玉と言われている尿酸(多すぎることは全くよくないが、重要な抗酸化物質)などがある。
脂溶性では、カロチノイドやフラボノイドなどの植物色素、またコエンザイムQ10も有名な抗酸化物質なんだ。

クマ:いろいろ、あるんだね。これは、どうやれば体に取り込めるの?

Koby:ほとんどの、抗酸化物質は、体のなかで作ることができるんだ。
ヒトの体で出来ないものは、食事としてとる必要がある。
すなわち人の体でできないビタミンCとか植物の色素なんかは、食べて補給するしかないし、また加齢にともない減少するようなコエンザイムQ10なんかはも意識的に補給した方がいいようだ。

クマ:ということは、放射線で発生する活性酸素も体内の抗酸化物質が無害化してくれるということ。

Koby:そういうことになる。
ラットをつかった実験で、抗酸化物質を食べさせたものと、そうでないもので、強い放射線をあてた場合の影響度に差がるという実験結果がいくつもある。
また、抗酸化物質と老化は、くわしく研究されている最中で、大勢の研究者は、抗酸化物質の影響が老化に関係していると考えているようだ。

しかし、活性酸素は、有害なものには間違いないので、むやみにつくる必要はないんだが、生物が生きる上では必ず発生するものなので、うまく、コントロールすることが大事だといえる。
また、傷ついたDNAを修復する酵素も生物は持っておったりしてるので、生命誕生してから40億年も生き抜いてきたんだな。

クマ:生きて活動することは、低放射線を浴び続けているようなものなのね。

Koby:うまいこというな。



参考資料
公益財団法人・環境科学技術研究所 放射線の生体作用
http://www.ies.or.jp/ri_online/radiation/radiation03-5.html

公益財団法人・放射線影響研究所 放射線が細胞に影響を及ぼす仕組み
http://www.rerf.or.jp/radefx/basickno/radcell.html

ウイキペディア ja.wikipedia.org/wiki/抗酸化物質

分かりやすい活性酸素・フリーラジカル 東京工科大学バイオニクス学部教授 山本 順寛
http://homepage3.nifty.com/junkan111/index2_7.html

独立行政法人 放射線医学総合研究所 プレス発表
「抗酸化物質による生活習慣病や老化防止のメカニズムを分子レベルで解明〜」
http://www.nirs.go.jp/information/press/2004/02_17.shtml