安心をつくる脳内伝達物質

 

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:リスクコミュニケーションとは、ちょっと違うんじゃが、リスクを判断する脳内の感情について、神経伝達物質のバランスから、科学的にある程度説明出来るそうじゃ。

クマ:感情をつかさどる物質?

Koby:全てが分かっている訳ではないが、知っておくと役に立つかもな。

クマ:それは、面白そうだね。ぜひ、教えて。

Koby:それでは、調査結果を分かりやすく説明しよう。  まず、この図を見てほしい。

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神経伝達物質はシナプス間隙に放出されることで、効果を及ぼすんじゃ。また、放出後は速やかに酵素によって不活性化されるか、またはシナプスに再吸収され、急速にその効果が無くなることになる。 神経伝達物質の種類は、約50種類ほど知られているが、その中で研究量も多く、また基本的な物質がこの3種類じゃ。
それぞれの物質が放出された時の効果は、ドーパミンが快楽・喜び、それにもとずく行動の動機付けに関係し、セロニンが精神の安定に、ノルアドレナリンが、覚醒・注意力・判断力をそれぞれ増幅する働きをする。
「麻薬とランニングハイ」で説明したように、エンドルフィンやアナンダミドは、ドーパミンを増放出させるように働くことが分かっている。 ヒトのこころは複雑なので、感情を支配する物質も数多くあり、それぞれが相互作用を及ぼし合っている訳じゃ。

そのなかで、安心感に関係する神経伝達物質がセロトニンじゃ。 セロトニンは、必須アミノ酸の1つトリプトファンから作られるんじゃが、ヒトはトリプトファンを体内で合成することができないため、食べ物からとらなければならない。
トリプトファンは肉類に多く含まれ、胃でタンパク質が消化され、消化管から吸収される。その後、血管で脳へ運ばれ、そこでセロトニンが作られる。従って、トリプトファンが欠乏すると、脳内の化学的環境が変わり、その結果、精神状態も変わってしまうそうじゃ。

霊長類の研究から、セロトニン量の多いサルは落ち着いており社会的地位が高いが、危険や好機には敏感でないことが明らかになった。逆に、セロトニン量の少ないサルでは、危険や好機により敏感になることで、グループ全体の生存率を高めているそうじゃ。
人間の社会では、サルの社会よりはるかに複雑でストレスも多いので、セロトニン量が少ないことに起因する危険・好機の敏感な認識そのものが、うつ、不安、強迫神経症につながっており、その治療薬としてセロトニンが使用されている。また、座禅などの修行もセロトニンを効果的に生成することができるそうじゃ。

また、英国の専門家チームは、バッタが孤独相から群生相に相転換するのは、脳内の神経伝達物質セロトニンが原因であることを突き止め、2012/1/29日の米科学誌「サイエンス(Science)」で発表した。
研究結果によると、セロトニンが、個々のバッタを敵対関係から引きつけ合うように変えるそうで、群生相のバッタのセロトニン水準は孤独相のバッタより3倍高いことも判明した。発表者は「セロトニンは脳内の化学物質で、人間の行動や他者とのかかわりに大きく影響を及ぼすものだが、これと同じ化学物質が、内気で孤独を好む昆虫を大集団に団結させるのを知るのは驚きだ」と語ったそうだ。
まぁ、セロトニンは、生物にとっていろいろな役目をしているようだ。



参考文献

京都大学全学共通講義 生命科学系向け現代物理学
http://ocw.kyoto-u.ac.jp/yukawa-institute-for-theoretical-physics/modern-physics-for-humanities-and-life-science/pdf/08.pdf

AFPBB News 2012/1/31