植物の免疫(植物のリスコミ)

 

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:細胞間コミュニケーション・シリーズの続きとして、今回は植物の免疫に関して、面白い事実を紹介しよう。

クマ:動物と植物は細胞自体から大きく違っていることを、学校で習ったけど、そもそも植物に免疫ってあるの。

Koby:いい質問じゃ。動物と植物の大きな違いは、細胞の運動能力じゃ。動物の免疫は、おもに免疫細胞が動き回って、害となるウイルスや細菌を駆逐する。細菌などは白血球が捕食(食べる)し、私達ヒトを含む動物は外来の病原体から身を守るために特殊化した免疫細胞があるんじゃな。
しかし、このような特殊部隊をもたない植物は、全身の個々の細胞が外敵に備えている必要があるんじゃ。

クマ:なるほど。

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Koby:このため、植物細胞は、内部に発達した液胞をもち、液胞の中に細菌を攻撃するための抗菌物質や分解酵素を多量に蓄積しているんじゃ。植物は外敵である細菌やウイルスの感染に対して、まず、感染を受けた細胞を犠牲にして死滅させる。死滅した細胞では、細胞内で液胞自体がつぶれ、液胞中の抗菌物質が病原体を死滅させる。そして、ウイルスや細菌が全身に拡散することを防いでいるんじゃ。

これらは、京都大学基礎生物学研究所の西村いくこ教授らのグループが世界で初めて発見し、米国(Science, 2004)に発表したんじゃ。

また、細胞外の細菌を死滅させるために、細菌に感染した植物の細胞が、細胞の内側にある液胞と外部とをつなぐトンネルをつくることにより、液胞内部の抗菌タンパク質を外部に放出して細菌を攻撃すると同時に、自らの細胞を死に至らしめるという防御メカニズムが、2009年に発表された。

クマ:ヘェ〜。植物もすごいことやるな。ということは、液胞に含まれている成分は、ひょっとして人間にも有効なんじゃない?

Koby:そうじゃ。よく気づいたな。 人間はこの抗菌作用を漢方という専門技術を発達させ、利用することになるんじゃ。

漢方薬は、抗菌以外にも種々の効能が知られているが、このウイルスへの効果を利用したものの中には、インフルエンザにも有効なものがあるんじゃ。
たとえば、「茶」のカテキンはポリオウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルスなどに抗ウイルス作用を示し、インフルエンザウイルスに対する作用は特に顕著のようじゃ。
試験管内実験だけでなく、動物実験や臨床実験でも、インフルエンザウイルスの感染を阻止することが明らかになった。
そして抗体と同じように、インフルエンザウイルスに瞬時に結合し、ウイルスの感染を阻止することが判明したとのことじゃ。
インフルエンザの予防あるいは、その対応として、お茶でうがいをすると効果があるわけじゃ。

他にも、漢方薬の銀ぎょう散の主成分である金銀花(きんぎんか/「スイカズラ」の花)も、インフルエンザウイルスに有効とのことじゃ。

また、最近では、植物色素の抗酸化機構もいろいろ研究されている。

(1)カロテノイド類:葉っぱなどに多く含まれている黄色の色素。構造は、炭素の1重結合と2重結合が交互に並んだポリエン構造が特徴で、そのポリエン構造の端の構造式で種類が分かれます。代表的なものに、ビタミンAの源として有名なβカロテンや、トマトのリコピンなどがある。

(2)フラボノイド類:花や実に多く含まれる色素です。15個の炭素原子を有し、2つのベンゼン環が3つの炭素原子で結合された骨格を持つことが特徴であるポリフェノール化合物です(フラボノイドはポリフェノールの1種)。  有名なものに、ブルーベリーのアントシアニンや、緑茶のカテキンやコーヒーに含まれるタンニンなどがある。果実の種々の色は主にものフラボノイドが発色したもの。

クマ:植物の免疫機構から、漢方薬が効くことが良く分かったよ。 インフルエンザには罹りたくないから、しっかり「お茶」でうがいをやりま〜す。



参考文献
 「植物の新しい免疫メカニズムの発見」2009年10月15日 京都大学 発表資料
 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2009/091015_1.htm
 島村忠勝著:奇跡のカテキン、2000、PHP研究所