インフルエンザのリスク

 

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



クマ:今、インフルエンザというと、H7N9タイプがヒトへの感染能力を持つと大変だ、ということで心配だね。

Koby:そうじゃな。そういう危機的な(パンデミック)感染に備えるためにも、(1)インフルエンザウイルスの生い立ち、(2)ヒトが本来もつウイルス撃退メカニズム(自然免疫)、そして(3)インフルエンザ予防戦略、について調べてみた。

クマ:これは、ぜひ、知らなきゃ。

Koby:それでは、説明していこう。 まず、インフルエンザの生い立ちじゃが、その前にウイルスの構造を見ていこう。これが、生い立ちとも深く関係するんじゃ。 まず、この図を見てくれ。

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この図は、インフルエンザウイルスの構造を模式的に表したものじゃが、ウイルスの大きな特徴が3つある。

まず1つめは、生き物はDNAとRNAという2種類の核酸を持っているが、ウイルスはそのどちら一方しか持っていないんじゃ。
このため、自分では増殖ができず、増殖するには宿主細胞が必要となる、これが2つ目じゃ。
つまり、自分以外の細胞に感染してしか生きていくことができず、感染できないと自然に死んでしまうしかないことじゃ、これが3つ目。

ということで、生き物と言えるかどうか大変"あやしい"しろものじゃが、宿主細胞に感染すると毒性を出すものがいて、これが感染症のもととなる訳じゃ。 インフルエンザウイルスの場合、生い立ちは大変に古く、人類が地球上に表れる以前からず〜と存続しているんじゃ。

さて、ここからが、インフルエンザウイルスの知られざる生い立ちじゃ。
インフルエンザウイルスはもともと、カモなどの渡り鳥と共生関係にあったんじゃ。
すなわち、夏にカナダやシベリアの湖で繁殖した渡り鳥は、湖を媒介にしてウイルスに感染する。そして、冬になると暖かいところ(日本やヨーロッパなどの温帯地方)にやってきて越冬する。この途中で、ウイルスがまき散らされるんじゃな。
これが、鳥インフルエンザで、養鶏場が被害にあったりする。 しかし、鳥インフルエンザは人間には感染しないんじゃ。

クマ:良かった。この理屈で、もし、鳥インフルエンザが人間に感染すると瞬く間に、広がっちゃうよね。

Koby:そうじゃな。しかし、長い時間の間の突然変異で、ヒトにも感染する能力を持つものが表れて、それがヒトインフルエンザA型やB型なんじゃ。
そして、実は、ブタは鳥インフルエンザにもヒトインフルエンザにも感染することができ、ブタの体内で、強度性の鳥インフルエンザがヒトインフルエンザの能力を得たときが危ないんじゃ。

クマ:そうなの。これは心配だね。

Koby:このため、世界各国が協力して、調査・発見体制をとっている。また、ワクチンの準備も進んでいるのが実態じゃ。
さて、次は、2)ヒトが本来もつウイルス撃退メカニズム(自然免疫)じゃ。

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ウイルスへの免疫機構は最近の研究から、かなり詳しく分かってきている。
カギとなるのは、免疫細胞のうち、樹状細胞と呼ばれるものじゃ。 この樹状細胞は、体内いたるところにいるんじゃが、とくに腸内に多い。

この樹状細胞は、表面にトル様受容体というウイルスや細菌を認識できるセンサーを持っており、これでインフルエンザウイルスを認識することができる。インフルエンザウイルスであることが分かると、すぐにあの有名なインターフェロンを出して、ウイルスを攻撃するとういう仕組みじゃ。

インターフェロン自体は、この対ウイルス効果が最初に発見されて、その後ガンにも有効であることがわかり超有名となる。最終的にインターフェロンはエンドヌクレアーゼなどの酵素を活性化させ、ウイルスのmRNAを破壊し、細胞内でのウイルス複製を阻害するんじゃ。 このように、少量のウイルスなら人間は免疫で破壊できるんじゃ。

クマ:なのに、ウイルスに感染するということは、どういうことなの。

Koby:あくまでも少量のウイルスで、かつ体力が充分な場合での話じゃ。すなわち、発症しない少量のウイルスとの接触までおさえることが重要じゃ。
さて、それでは、最後に、(3)インフルエンザ予防戦略について話そう。

これまで説明したように、人間はもともと少量のウイルスなら撃退できるので、まずは、ウイルスとの接触を最小限にすることじゃ。

そのためには、まず「手洗い」が重要となる。手洗いによって、ウイルス自体が流される効果もあるが、ウイルスの膜を作っているエンベロープは水に溶けにくく脂に溶けやすい脂溶性のため、石鹸などの界面活性剤はエンベロープを壊すので、効果があるんじゃ。

つぎは、「マスク」。かかってしまった場合は"くしゃみ"などでウイルスをまき散らさないためにも重要だが、マスクのガーゼ繊維は帯電していて、ガーゼをすり抜けようとしたウイルスは静電気によって引き寄せられ、マスク内部まで通り抜けにくい構造になっているんじゃ。このため、予防効果も大いにある。

最後に、「うがい」。これは、のどに付着したウイルスをのどの繊毛運動で外部に押し出す効果が期待できる。

この、「手洗い」「マスク」「うがい」が基本じゃ。

ほかに、積極的な予防方法として、ワクチンを使った予防接種がある。ワクチンによる予防接種にはインフルエンザウイルスの感染を防ぐ効果はないが、免疫(獲得免疫)を強化することで重症化させないことを狙っている。 以上のインフルエンザウイルスの対策をしっかり守って、感染を予防しよう。



参考文献
JSTバーチャル科学館 インフルエンザウイルスミステリー
JSTサイエンスチャンネル サイエンスフロンティア21 自然免疫の真相に迫る