細胞が分化するしくみ(iPS細胞のリスコミ)

 

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:iPS細胞に関して、少しつっこんで調査を行った。

クマ:iPS細胞は、どんな細胞へも分化できる可能性がある夢の細胞だけど、どういう調査なの。

Koby:つまりじゃな、夢の細胞を造ることが出来た訳じゃが、この細胞をもとにして、狙いとする細胞、たとえば心臓の筋肉(心筋細胞)や種々の臓器細胞へ、いかにうまく分化させるかが、大きなポイントとなるんじゃ。

クマ:確かにそうだけど、ノーベル賞も取ったぐらいなんだから、細胞の分化に関する研究も進んでいるんじゃないの。

Koby:ある程度は進捗している。iPS細胞がない時代は、倫理上の問題から、ヒトの胚(卵)由来の幹細胞は実験に使用できず、カエルやイモリなどの動物実験しかできなかったんじゃ。やっと、iPS細胞で、ヒトの細胞に関する分化研究が行えるようになった。 また、細胞の分化は、ものすごく複雑で、一朝一夕には解明できないしろものなのじゃ。

クマ:なるほど。ヒトの体には約60兆個の細胞があるそうなんだけど、それぞれ適切に分化されている、その仕組みの解明は難しそうだね。

Koby:その通りじゃ。だが、少しづつ、解明されてきているのも事実。 この図は、細胞が分化する過程で「DNA」の情報がどのように読み取られているかを、模式的に表したものじゃ。DNAの情報は、当然全て一度に使用されるものではなく、種類と順番が決まっている。それをコントロールしているのが、どうも種々の分化促進たんぱく質(ウィント、ノギン、G−CSFなど)ということじゃ。

DNA情報伝達のしくみ

DNAの本体は通常、ひも状になってヒストンタンパクに巻き取られている。この、ヒストンタンパクがアセチル化されたり、メチル化されたりした時の巻き付き状態の変化で、転写されたり、転写が抑制されたりして、必要な情報(これもタンパク質)が、必要な時に取り出される仕組みじゃ。 この、様々な化学修飾に関係するのが、種々の分化促進たんぱく質(アクチビン、ウィント、ノギン、G−CSFなど)で、最新のヒトのiPS細胞では、心筋細胞の分化について、特定されたとのことじゃ。

クマ:それは、すごい。

Koby:慶應義塾大学がiPS 細胞からの心筋細胞の分化増殖を促進する物質を同定して発表した。 この図は、その組み合わせじゃ。

心筋細胞への分化

これは、マウスの受精卵を用いて、細胞から心臓が分化する時系列順に、どういうタンパク質が、特異的に発現するかを、詳細に調べた結果じゃ。 受精後、7.5日のノギン、8.0日にウィント、10日にG−CSFというタンパク質が特異的に発生していることが分かり、この順番にiPS細胞に添加すると、非常に効率良く心筋細胞が発生したんじゃ。

クマ:ヒョエ〜。ビックリ。たしか、ウィントは、神経細胞の分化に関係していた分化促進タンパク質だったね(前回の「記憶力低下のリスクと、その対策」参照)。

Koby:今後、この手法を種々の臓器に適用することで、分化のメカニズムを解明しようとされておる。

クマ:再生医療が、現実の医療に適用される日も近いような気がしてきたよ。

Koby:その通りじゃな。



表1  対象臓器別のアプローチ(2013/10月時点)
対象臓器心筋肝臓
細胞の特徴幹細胞がなく心筋細胞になれば増殖力が無くなる肝臓幹細胞があり、幹細胞へ増殖できる
アプローチiPS細胞からWNTなどの生体化学物質で心筋細胞まで分化させる[WNT-KY02111を用いた心筋分化誘導法によって中辻らと潟潟vロセルが確立]幹細胞の前駆細胞(内胚葉細胞)と血管内皮細胞、間葉系細胞をiPS細胞から作成し肝臓の原基(肝芽、Liver Bud)をつくり、その後体内へもどし、肝臓に分化させる
達成度iPS由来筋細胞を用いた新薬の心毒性試験へ適用展開が進みそう達成度は心筋細胞に劣るが、臓器を作るという観点からは新展開が期待できる
課題心筋細胞の遺伝子発現レベルや電気的性質の点において、まだ完全な成人型心筋のレベルまでは成熟していないことが今後の課題内胚葉に由来する臓器(膵臓など)に限られる




参考文献

http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2009/kr7a43000002h6h4-att/100302_1.pdf
ES 細胞・iPS 細胞からの心筋細胞の分化増殖を促進する物質を同定
慶應義塾大学医学部

http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/377
サイエンスフロンティア21 (57)器官の形成メカニズムを解く ICORP器官再生プロジェクト

http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/381
サイエンスフロンティア21(61)遺伝情報はどのように制御されるのか −加藤核内複合体プロジェクト−

http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/M130001005
サイエンスチャンネル/再生医療は様々なアプローチ(2013年10月3日配信)

http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130704/
iPS細胞から血管構造を持つ機能的なヒト臓器を創り出すことに成功/横浜市立大学/科学技術振興機構

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2012/121026_1.htm
ヒトES/iPS細胞から臨床応用に適した心筋分化誘導法を開発−京都大学