細胞のリスクコミュニケーション

 

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:平成24年9月30日、科学技術振興機構(JST)と神戸大学は、「ミトコンドリアの機能低下が周辺組織のガン化を促進する」ことを、Natureに発表した。
近年、前ガン細胞(ガン化する前の良性腫瘍)や正常細胞が、互いに影響を及ぼし合うことによって、ガン化が促進される可能性があることが予想されていたが、これを世界で初めて証明したことになる。
ということで、今回は細胞間のコミュニケーションについて、調査することした。

クマ:今回は、出だしから、いつもとちょっと違ってない?

Koby:いや、いや。ちょうど、前回インフルエンザのリスクについて調査したんじゃが、これも突きつめると、ウイルスと免疫細胞とのやりとり(コミュニケーション)が鍵になっておったんじゃ。

クマ:覚えているよ、たしか樹状細胞がウイルスをやっつける話だったよね。

Koby:そのことが記憶に新しいところで、こんな世界初の発見ニュースを聞くと、俄然調査だましいが呼び起こされるという訳じゃ。

クマ:分かりました。それじゃ、ドーパミン効果が続いているうちに、分かりやすく解説お願いします。

Koby:では、説明しよう。まず、この図を見てくれ。

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 この図は、細胞間のコミュニケーションの役割を模式的に表したものじゃが、細胞間コミュニケーションの役割は大変に重要なことが分かった。
つまり、細胞たちが健全に生存してくための根本法則がここにあるんじゃ。
 まず第一に、成長(大きくなる)と維持のための、分裂・増殖と生存じゃ。
 第二に、それぞれの機能を発揮出来るようになるための、分化がある。
 そして、最後に、コミュニケーションの結果としての細胞死(アポトーシス)がある。
 免疫の場合は、細菌やウイルスを攻撃・捕食する作用のほかに、積極的な自己感染細胞の細胞死(アポトーシス)を起こさせることも重要な役割なんじゃ。

クマ:細胞レベルで協調して生存するには、Kobyの言うように綿密な細胞間同士のコミュニケーションが必要のようなことは良く分かるよ。

Koby:この細胞間伝達は、大変重要かつ興味深い分野なんじゃが、その仕組みを解明することが大変技術的に難しいんじゃ。

クマ:確かに。影響物質といっても、大変な種類があるだろうし、どのようなメカニズムで影響物質ができるかなんて、解明できれば生命活動そのもを解明したようなもんだよね。

Koby:その通り。そのような中で、ガン化に関係する仕組みを発見した意義は大きいんじゃ。

DENNGIHA_1.GIF - 13,921BYTES (科学技術振興機構(JST)プレスリリースH24/10/1「細胞間の相互作用で良性腫瘍ががん化する仕組みを解明」から)

今回の発見は、この図が示すように、細胞間の相互作用を生体内で解析することが可能なショウジョウバエを用いた実験により、前がん状態の良性腫瘍の一部でミトコンドリア機能障害を起こすような遺伝子変異が良性腫瘍に導入されると、その良性腫瘍細胞からの情報たんぱく質(炎症性サイトカイン、細胞増殖因子)で、近隣細胞の増殖能が高まり、かつその時に周辺細胞の特殊な遺伝子(Ras)が活性化していると、ガン化することを発見したんじゃ。
分かりやすく言うと、ガン化一歩手前の細胞のミトコンドリアの調子がおかしくなると、周りの細胞のRas遺伝子が活性化しているときはその影響で、周りの細胞がガン化するということじゃ。
となりの細胞に「毒をもられて」ガン化するといっても良いかの。
この研究により、ミトコンドリアの機能障害やそれによって放出される炎症性サイトカインをターゲットにした新しい治療法の開発が期待されるということじゃ。

クマ:ガン化の仕組みって複雑なんだね。

Koby:そうじゃな。また、ガン細胞自体も、先ほどの細胞同士のコミュニケーションで、免疫細胞から標的にされ、捕食されているんじゃ。

 人間の体の免疫細胞は、体重が60kgの人で約4.6リットルの血液には、4,600ml×5,000,000=230億個の白血球があり(血液検査の白血球の数が5000の場合、これは1μl(マイクロリットル)の中に5000個の白血球があると言うこと)、その中の癌を攻撃できるナチュナルキラー細胞とキラーT細胞は約8%なので、約18億個あることになるんじゃ。
つまり、1円玉程度(1グラム)の血液に戻してみると、なんと癌を攻撃できる免疫細胞は約40万個いるんじゃ。
この免疫細胞のリスクコミュニケーションの結果、一般の健康的な人でも、一日約5,000個発生するガン細胞が、免疫細胞によってやっつけられているんじゃな。

クマ:細胞間の素早いリスクコミュニケーションが、大変重要なことが良く分かりました。



参考文献
 Essential細胞生物学 第16章 原著者 : Alberts, B.et al.
 科学技術振興機構(JST)プレスリリース平成24年10月1日「細胞間の相互作用で良性腫瘍ががん化する仕組みを解明」