iPS細胞から網膜細胞を作る方法

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:iPS細胞からの組織形成のなかで最も進んでいる、網膜細胞の作成方法に関する詳細資料が手に入ったので、分かりやすく紹介しよう。
この資料は、理化学研究所の網膜細胞再生の第一人者である高橋政代・理化学研究所網膜再生医療研究チームリーダーのもので、参考資料アドレスからアクセスも可能。

クマ:それは、すごい。はやく、おしえて。

Koby:それでは、教えよう。まず、下表の材料を準備する。

 まずは、iPS細胞。自分の細胞から作るとすると、現在では遺伝子組み換え操作および、品質の高いiPS細胞の選別と増殖に大変な労力が必要なため、数百万円から数千万円かかると言われている。

つぎに、網膜の膜に相当するタンパク質で、ラミニン(Laminin)とフィブロネクチン(Fibronectin)を各々1mg準備する。

そして、培養するためのマルチウェルプレート、とリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、が主な材料となる。

 プレートに、調整したラミニンとフィブロネクチンをコーティングする(150μL/well)。37℃インキュベーターに3時間から一夜間で静置後、ヒトiPS細胞のコロニーを剥がし、5〜10個細胞程度の塊になるまで軽くピペティングしてプレートに移す。

そして、分化誘導因子であるDkk-1とLefty-Aを加える(※この分化誘導因子の特定が、最もむずかしい)。

翌日から 20%KSR と15%KSR分化培地でそれぞれ4日間ずつ、そして10%KSR分化培地で10日間(20日目)浮遊培養を行う。

以上で、網膜色素上皮(RPE)細胞が誘導できるというわけだ。

クマ:なんだか、簡単だね。

Koby:網膜細胞は、比較的構造が簡単で、かつ以前から研究が進められていたので、iPS細胞適用の先陣を切って臨床試験が開始されようとしている。しかし、構造が複雑な臓器や、分化がむずかしい臓器は、これからが勝負ということじゃ。




iPS細胞から網膜細胞を作る材料
材料名称目的・作用注意点
ヒトiPS細胞OCT3/4、KLF4、SOX2とc-MYCを強制発現することによって作られたiPS細胞iPS細胞には品質(出来不出来)があるので、いかに安定したiPS細胞を選別するかがポイント。自分の細胞から作った場合、単価は数百万円から数千万円か。
PDLコートスライド細胞の付着および分化・接着を促進するポリ-D-リシン(PDL)をプラスチックやガラス表面へコーティングしたスライド単価約1000円/日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
ラミニン(Laminin), 1mg上皮細胞と細胞外マトリックスの間にある基底膜を構成する主要なタンパク質。細胞の接着、遊走、増殖に関与する。18,400円/1mg,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社
フィブロネクチン(Fibronectin),1mgフィブロネクチンは、細胞外マトリクスを形成する糖タンパク質で、細胞の接着を促進する。18,000円/1mg,和光純薬工業株式会社
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)この緩衝液は生体内で普遍的に見出されるイオンで構成される為に無毒であり、等張になるように調製されている。比較的安い
KSR培地KSR(Knockout Serum Replacement:血清のかわりとしてES細胞が培養できる添加剤)を加えた培地比較的安い



iPS細胞から網膜細胞へ分化させるための必要因子(タンパク質)
名称因子の特徴因子ファミリーの説明
Lefty-ALeftyは、左右判定要素に密接に関連するTGF-β増殖因子のファミリー。このタンパク質は、非対称左右の間に臓器系の決定に関わり、特に心臓および肺で、左右軸奇形と関連している。TGF-β増殖因子:腎臓、骨髄、血小板などほぼすべての細胞で産生される。骨芽細胞の増殖およびコラーゲンのような間葉細胞の合成・増殖を促進し、上皮細胞の増殖や破骨細胞に対しては抑制的に作用する。
Dkk-1dickkopfファミリーのメンバーで、WNTシグナル伝達経路の阻害を介して胚発生に関与している。Wntタンパク質は胚発生の制御にかかわる細胞外《情報伝達》分子である。WNT情報伝達因子には2つのファミリー、膜貫通型であるFrizzledファミリーと、Dickkopf(ドイツ語で「大きい頭」あるいは「頑固」の意)ファミリー。




参考文献

独立行政法人 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究チーム
ヒトiPS細胞から網膜細胞への分化誘導接着培養法
http://www.bdj.co.jp/falcon/products/hkdqj20000037q28-att/65-122-00_TechnicalData.pdf