iPS細胞のロードマップ

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:今回は最近のiPS細胞研究の進捗について。

クマ:分かりやすくおしえてね。

Koby:iPS細胞から種々の臓器を作り出そうという研究は、まだ出発の段階じゃが、網膜色素上皮細胞(加齢性黄斑の原因)が一歩抜きんでている。
つまり、iPS細胞から目的の細胞へ変化させるには、特定の遺伝子をその臓器がもつ設計図どおりの順番で活性化させる、すなわち受精卵から赤ん坊が誕生するプロセスの、場所と時間のごく一部分を、できるだけ正確にまねる必要がある。
この分化誘導因子の特定が、最もむずかしいんじゃが、網膜色素上皮細胞では、分化誘導因子であるDkk-1とLefty-Aが特定されており、数多くの動物実験も終了している。
「iPS細胞から網膜細胞を作る方法」を参照
http://www.ac.auone-net.jp/~kankyouj/kuma2-iPS-RPE1.html

このように、iPS細胞から臓器を作るには、遺伝子の設計図を目的のとおりにひも解く物質(分化誘導因子)と、その順番が正確に分かる必要がある。
しかし、遺伝子の発現はいろいろな要因が複雑にからんでいるので、一筋縄では解明できないことは、容易に想像できるだろう。
また、設計図の読み取りを間違えると、遺伝子情報の誤解釈の結果としての「ガン細胞」の発現にもなりかねないということだ。
以上のことから、iPS細胞からの臓器制作は膨大な実験と時間が必要になる。
また、最近のアプローチとして、細胞の数が減って臓器としての機能が落ちたところへ、iPS細胞とその臓器への分化誘導を助ける補助物質を混合した未分化細胞を移植・注入して、臓器の細胞を増殖させようとする研究も進んでいる。
後者の場合は、生きた臓器細胞の相互影響効果もあるので、臓器そのものを正確に作成するより、早い段階で実用化されるかもしれない。
しかし、いずれの場合も、設計図の読み取りが間違うと、「ガン細胞」の発現になりかねないので、慎重なアプローチが必要であることに間違いはない。

クマ:そうなんだ。

図1. iPS細胞研究のロードマップ (資料)文部科学省「iPS細胞研究ロードマップの策定について」より iPS-road map





参考文献

(資料)文部科学省「iPS細胞研究ロードマップの策定について」より
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n994_01.pdf