<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>
<Koby:一緒に調査している科学オタク>
Koby:遺伝子組み換え作物に関して、少しつっこんで調査を行った。
クマ:遺伝子組み換え作物は、数年前からいろいろな話題になっているけど、安全なの。
Koby:一言でいえば、食品添加物や種々の化学物質の含有規制値とおなじくらいの安全性と考えていいじゃろう。
まず、遺伝子組み換えのことから、調査結果を説明しよう。
クマ:iPS細胞とか、遺伝子に関係する話題が多いので、うってつけだね。わかりやすく、お願いします。
Koby:よし、きた。
さて、遺伝子組み換えとは、その名のとおり、本来持っていた遺伝子に対して、新しい遺伝子を付け加えるということだ。遺伝子は、細胞の中にあるDNAのアデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種類のタンパク質の順番情報から、タンパク質の構造にかかわる基本情報部分と、作り方を指令する情報部分が遺伝子と呼ばれて、DNAのらせん構造のなかで、部位が特定されている。
DNA自体は、ものすごい長いDNAひもが、糸巻きにまかれたような感じで、らせん状の構造を造っている。
この、DNAのなかの、遺伝子情報を持つ部位(すなわち遺伝子)を、切り取ったり、付け加えたりして、新たな遺伝子情報を付け加えることが、遺伝子組み換えなんじゃ。
クマ:遺伝子組み換えの意味は、なんとなく分かったけど、こんなことが、できるの。
Koby:実は、生物では、日々行われているんじゃよ。
クマ:えぇっ〜。
Koby:微生物の世界、特にウイルスでは、日常茶飯事なんだ。
ウイルスとは、DNAかRNAのどちらか一方しかもたない、はっきり言って、生物とは言えない代物なんじゃが、このウイルスが増殖するには、自分とは違う細胞の中に侵入して、自分のDNAやRNAを侵入した細胞のDNAに送り込んで、自分のコピーを造るんじゃ。
ウイルスが感染してウイルスのコピーを造ったこと自体、一種の遺伝子組み換えなんじゃ。
この、しくみを使って、山中教授がOct4、Sox2、Klf4、c-Mycの4種類の遺伝子を組み込みiPS細胞を作った話は有名じゃな。
また、細菌の中にあるプラスミド(plasmid)と呼ばれる、リング状のDNA分子は、薬剤に対する耐性を示す蛋白質の遺伝子を持つものや、DNAの接合を起こしDNAの形質転換させるものなどがある。
細菌が特殊な環境(高温、乾燥、高塩分など)に置かれた場合や病原性を発揮する場合などに、プラスミドの遺伝子が独自に働き、DNAの形質転換を起こさせているんだ。
植物の場合には、土壌細菌であるリゾビウム属のアグロバクテリウム (Agrobacterium)は、植物細胞に感染してDNAを送り込む(形質転換)性質があるため、植物のバイオテクノロジーでよく利用されている。
クマ:なるほど。遺伝子組み換えとは、こういうことだったんだ。
ところで、本題の遺伝子組み込み作物の実態はどうなの。
Koby:そろそろ本題に入るとするか。
1970年代にまず大腸菌を用いて、遺伝子組換え実験に初めて成功し、その後、遺伝子組み換え作物は、1996年にアメリカで大豆の栽培が始められて以降着々と普及してきた。
2011年現在、全世界のダイズ作付け面積の75%、トウモロコシで32%、ワタで82%が遺伝子組み換え作物とのことじゃ。
日本の場合は、ダイズ、トウモロコシ、ナタネのほとんどが輸入で、このうち遺伝子組み換え作物のシェアは、ナタネやトウモロコシは半分ぐらいで、ダイズも85%が遺伝子組み換え作物とのこと(2004年)。
これらの作物がどのような用途に使われるかと言うと、ダイズは食用油、豆腐、みそ、納豆、トウモロコシは動物用飼料、コンスターチ等、国産のナタネはほぼ全量食用の油として使われてる。
しかし、消費者が遺伝子組み込み作物をあまり好まないという事情が日本にあり、豆腐、みそ、納豆等は非組換えのものを使っている(2012年)が、食用油、動物用飼料等は組換えを分別してない作物を利用しているということじゃ。
クマ:こんなに、つかわれていたんだね。
Koby:そうじゃな。
次に、安全性について。
安全性の審査は、既存の食品を比較対象にして相違点に注目し、組換えDNA技術によって付加されることが予想される、すべての性質の変化について、その可能性も含めて、環境省管轄の遺伝子組換え食品等専門調査会が安全性評価を行なっている。
安全性評価では、組み換え対象となる遺伝子の科学的調査情報に基づき、健康に有害な影響を与えるような変化、具体的にはアレルギーを引き起こす物質や毒性物質が新たに作られたり、あるいは量的に増えたりしていないかどうか、また、栄養素の量が大きく変化していないかなどを調査する。
具体的には、
・組み込む遺伝子、ベクター(組み込む遺伝子を運搬する DNA)などはよく解明されたものか
・組み込まれた遺伝子はどのように働くか
・遺伝子を組み換えることで新しくできたタンパク質は人に有害ではないか、アレルギーを起こさないか
・組み込まれた遺伝子が間接的に作用し、有害物質などを作る可能性はないか。
・食品中の栄養素などが大きく変わらないか
という点で、膨大な調査資料をもとに評価され、調査結果は、内閣府の食品安全委員会がHPに公表している。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/list?itemCategory=010
組み込まれる遺伝子は、植物を対象にしたものがほとんどで、他には研究が進んでいる昆虫(かいこなど)もある。
安全性については、食品添加物や種々の化学物質の含有規制値とおなじくらいの安全性と考えてもいいじゃろう。
参考に、低飽和脂肪酸・高オレイン酸及び除草剤グリホサート耐性ダイズの評価書のアドレスをのせるので、一度見てもよいかも(下記のアドレスの中の通知文書が詳細評価結果です)。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20111011218
クマ:なるほど、なるほど。DNAの研究調査は日々進歩しているんだ。
Koby:ところで、遺伝子組み込みを行った後の効果の発現については、iPS細胞とおなじように、細胞が分化して望みどおりの機能が出せる植物なり微生物なりが生まれる必要があることは分かるかな。
クマ:そりゃ、そうだね。
Koby:この、分化も遺伝子組み換えには重要なファクターとなる。
つまり、多細胞動物の体は様々な種類の細胞で構成されており、例えば60兆の細胞から成ると言われるヒトでは内臓、神経、血球、皮膚などで形も機能も異なった細胞で構成されておる。
そして、これらの細胞は全て一個の受精卵から生まれ、細胞分裂を繰り返して個別の道を進み、分化して専門化した形態・機能を獲得した細胞になるんじゃ。
人間などでは、この過程は普通には後戻りができず、やっとiPS細胞で、その可能性が示されたところじゃ。
しかし、植物の細胞も受精卵(おしべとめしべ等)から分化するが、普通の本体の細胞でも、適当な条件で培養すると、初期化のような現象が起こり(カルス)、細胞分裂を経て再分化し、本体を再形成できるんじゃ(植物細胞の持つこの能力を分化全能性と言う)。
一般に植物の体細胞が分化全能性を保持していて、動物の体細胞がそうではないのはなぜかと思うじゃろが、一言でいうと現時点(2012年)では明快な答はないようじゃ。
ただヒントになるのは、細胞分裂の各段階でDNA中の遺伝子の特定の部位が、置換基などが結合することで紐ほどかれ、ある特定の遺伝子が順番に発現し分化していくんだ。
これは基本、後戻りのできないプロセスなんじゃが、植物は動物よりリセットされやすいとのことじゃ。
今後、加速度的に、動植物の脱分化と再分化に関わる遺伝子の特定(同定)が進み、動物と植物の分化全能性に関する差異についても解明されていくじゃろう。
参考文献
http://www.fsc.go.jp/koukan/risk-tokyo191102/risk-tokyo191102_gijiroku.pdf
食品に関するリスクコミュニケーション - EUにおける遺伝子組換え作物のリスク評価について -
食品安全委員会
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin
/idenshi/index.html
遺伝子組換え食品(厚生労働省)
http://jsv.umin.jp/journal/v56-2pdf/virus56-2_155-164.pdf
ウイルス第56巻 第2号,pp.155-164,2006 「植物ウイルスの感染と宿主因子」
http://www.monsanto.co.jp/data/knowledge/knowledge2.html
遺伝子組み換え作物の基礎知識:日本モンサント株式会社
http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/377
サイエンスフロンティア21 (57)器官の形成メカニズムを解く ICORP器官再生プロジェクト
http://sc-smn.jst.go.jp/playprg/index/381
サイエンスフロンティア21(61)遺伝情報はどのように制御されるのか −加藤核内複合体プロジェクト−
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