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やさしくおしえてiPS細胞(1)/アイちゃんのリスクコミュニケーション<アイ:iPS細胞のアイちゃん>
わたしは、iPS細胞のアイちゃんです。 ノーベル賞を受賞した山先生たちが創ってくれました。自分が、これから先どうなるかの自覚も予想もまったくありませんが、生い立ちから始まって、いろいろなトピックスを紹介します。 【1. 神秘の誕生】 私が生まれたきっかけは、遺伝子と生命誕生のしくみが徐々に分かってきたことが、おおきいのです。 約30億個のアデニン、シトシン、グアニン、チミンというアミノ酸のパターンで構成される遺伝子という設計図がはたらく「しくみ」が分かり始めてきました。 大型客船やジャンボ旅客機のような複雑で大きいものの設計図を、仮にA4サイズの本にしたらどうなるでしょうか。たぶん、数千、数万ページの大変分厚い本になることでしょう。 これと、同じりくつで、30億個のアミノ酸という言葉で書かれた遺伝子の設計図も、設計図を読み取る職人さん(トランスファーRNAなど)が読み取ることのできる長さになると、なんと2mにもなるそうです。 これじゃ、千分の数ミリメーターのちっちゃな細胞のなかでは、からまり合って大変なことになります。 そこで、どうなっているかというと、分厚い設計図の本のように、普段は折りたたまれているのです。遺伝子はアミノ酸がつながった「ひも」のようなものですから、毛糸が織られてマフラーになっているとイメージすると分かりやすいでしょう。 そして、遺伝子である毛糸の情報を読み取るときは、それぞれの遺伝子別にマフラーの一部を伸ばすような物質(総称でも増殖因子とかサイトカインとかWintとかいっぱいある)が、順番とタイミングを間違えることなく、細胞内で作られて遺伝子に働いているらしいのです。 こんなメカニズムが分かり始めたころ、受精直後から5日目くらいのES細胞の時期に活発になっている遺伝子の調査がされ、これをもとに山中先生が、Oct3/4(オクトスリーフォー)・Sox2(ソックスツー)・Klf4(ケーエルエフフォー)・c-Myc(シーミック)の4つの遺伝子を、普通の体細胞に導入すると、ES細胞と同じように全身のさまざまな細胞に分化できる状態になる、すなわち私、iPS細胞が出来上がったという訳です。 そして、iPS細胞に種々の増殖因子を試して、いろいろな細胞に分化させようと、まさしく世界各国が競争しているのです。 【2. iPS細胞へ変わるには】 普通の細胞を、iPS細胞へ変化させるには、Oct3/4(オクトスリーフォー)・Sox2(ソックスツー)・Klf4(ケーエルエフフォー)・c-Myc(シーミック)の4つの遺伝子を、ウイルスベクターとか、プラスミドとかの遺伝子組み込み技術で、体細胞のDNAに入れ込むことで、変化します。 おもしろい点は、この4つの遺伝子は、もともと人間のDNAにもあるのですが、ウイルスなどを使って遺伝子を、入れ込むことで、活性状態になるということです。 このような、遺伝子組み換え技術は、植物などでは広く実施されていて、遺伝子組み換え作物として商業利用されています。 しかし、ちょっと考えると、もともとのキーとなる遺伝子を持っているDNAに、また同じ遺伝子を組み込むわけですから、技術的には回りくどいやり方に思えます。 (ウイルスは、今までの生存競争で、自分の遺伝子を別のDNAへ組み込んで、かつ同時に活性化するしくみを獲得してきたので、それを使っている。) これに対して、別の方法とは、直接ターゲットの遺伝子を活性化させる方法ですが、今のところそれぞれの遺伝子に特有の活性化因子は完璧に解明されていないようです。 ところが、最近遺伝子を使わず、化合物だけでマウスのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作ることに成功したと、北京大のチームが8月19日(平成25年)、米科学誌サイエンス電子版で発表しました。 チームは、薬の成分などとして使われている低分子化合物1万種類の中から、こうした遺伝子の役割を置き換えられるものを探し出し、七つに絞ってマウスの細胞に入れ、この結果、iPS細胞ができることを確認したそうです。 遺伝子を使うと細胞ががん化する危険があり、より安全な細胞作りにつながると期待されているようですが、実のところ、この七つの活性化因子は、ターゲット遺伝子以外の遺伝子も活性化している可能性があるので、その再現性や、ガン化に対する安全性も、遺伝子組み込みiPS細胞と同様に、入念に調べる必要があるのです。
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