光合成のリスコミ/活性酸素とカロテノイドの切ってもキレない関係

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:今回は、最新の光合成の研究結果と、光合成での活性酸素対策について、リスク回避の観点から解説しよう。

クマ:光合成のリスク回避?

Koby:それでは、まず光合成のはなしから。
光合成は、皆さんもご存じのように、植物が太陽光線からエネルギーの元になるデンプンを作る働きのことなんだが、その詳しいメカニズムは詳しく分かっていないんだ。
なぜかというと、光合成をつかさどる反応の中心は、巨大な光合成タンパク質で、その構造解析が非常に難しかったからなんじゃ。
ところが、2011年4月、大阪市立大の神谷信夫教授が、その構造解析に成功し、そのメカニズムの解明が急ピッチで進んでいる。
下の図1が、光合成タンパク質の構造を模式的に表したもので、見ればわかるようにとてつもなく複雑な構造をしている。
光合成反応の第1のプロセスは、水(H2O)を水素と酸素に分解するプロセスじゃが、これがなかなか分からなかった。
最新の研究では、光合成タンパク質(PSII)には、水分子が入り込む「通路」と、その通路の先に、実際に水を分解する「触媒中心」と呼ばれる部分があり、通路に水分子が入り込むと、光合成タンパク質(PSII)は、光のエネルギーを利用して、触媒中心を含む自分自身の立体構造を変化させ、水を分解する。
そして反応を終えたあとは、再びもとの立体構造に戻ることが分かったんじゃ。

クマ:水を水素と酸素に分解するメカニズムか、これはすごい!!

Koby:そうじゃ。
さて、本題の活性酸素について。
いくら植物とは、いえ活性酸素が不要に発生すると、細胞にダメージを与える。
この、活性酸素を防御しておるのが、カロテノイドなんじゃ。
カロテノイド色素は、光合成色素の中でもクロロフィルに次いで多く存在し、光合成タンパク質に接合している(図2)。
このカロテノイドは、「補助色素」として光の吸収に働いている、というのが昔のイメージじゃったんじゃが、現在では、カロテノイドの一番の働きは、生物にとって害のある活性酸素が生成しないようにすることだと考えられるようになっておる。すなわち、クロロフィルがエネルギーを吸収した状態におかれると、その一部が三重項クロロフィルと呼ばれる特別な状態になる。
この三重項クロロフィルが酸素と反応すると一重項酸素という活性酸素が生じ、細胞に害を与える。
カロテノイドは、この三重項クロロフィルまたは一重項酸素と反応して、それらを元のクロロフィルや酸素に戻して危険が広がらないようにする役割を果たしているんじゃ。

クマ:不要に発生する活性酸素を防護するメカニズムか、これは、もっとすごい!!

Koby:そして、この活性酸素防御効果を有効に利用しているのが、人間じゃ。
ハーバード大学を中心にした疫学調査で、66歳以上の高齢者1,271名を対象に、カロテノイド含有野菜の摂取量とガンによる死亡率を5年間調査した調査結果が、1985年にThe American Joumal of Clinical Nutritionに発表された。
結果、カロテノイド含有野菜を最も多く摂取したグループの死亡率は最も少なく摂取したグループの3分の1以下であった。
また、カロテノイド含有野菜の摂取量が増えるとガン発病率のれ顕著な低下が見られる。
これらの結果から、カロテノイドは細胞のガン化を予防する成分であると結論している。


クマ:野菜のカロテノイドの大切さが、本当に分かりました!!!




図1.光合成タンパク質複合体(PSII) PS2-fig


図2.光合成タンパク質複合体へ結合するカロテノイド carotenoid-site


図3.カロテノイドの効果 carotenoid-site


図4.代表的なカロテノイド carotenoid-kind


参考文献

Spring8 大型放射光装置 ナビゲーション
光合成の中核をなす複合体の構造を解明 〜人工光合成への大きな一歩を踏み出した〜
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_59#term2