2.野菜(植物)の毒素

 

<クマ:色々なことを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>

Koby:クマ、植物と動物の違いはなんでしょうか?

クマ:まぁ、一番大きな違いといえば、言葉がしめすように、動物は速く動くことができ、ほとんどの植物は動くことができないことかな。今回は、禅問答みたいな質問から始まったけど、これが「毒素」と何か関係するの。

Koby:それが、おおありなんだ。植物は、クマが言ったようにほとんど動くことができないから、生きていくための防御機能をほとんど体内の化学物質に頼らざるを得なかったんだ。まぁ、これは当然の結果ともいえる。
例えばキャベツの場合は、なんと50種類近くの防御物質を持っているらしい。
有名なものでは、キャベツなどのアブラナ科の植物に含まれるグルコシノレート(カラシ油配糖体)じゃが、これのおかげで多くの害虫がキャベツを嫌がり、例外としてアオムシくらいしかつかないんじゃな。また、セロリやグレープフルーツにはフラノクマリン、山菜採りで人気のワラビやフキノトウには発ガン性がはっきり証明されているプタキロシドが含まれているそうじゃ。

クマ:ヒョエ〜、ビックリ。

Koby:いまさら、びっくりすることもない。
1990年に、これらの植物の発がん物質を調査して発表したのが、カリフォルニア大学バークレイ校のBruce N. Ames教授じゃ。
エームス教授によると、植物の自己防衛システムに使用される「天然の農薬」ともいうべき有毒物質が、野菜を食べることによって一日あたり1.5g(米国の場合)も摂取されていると計算されたのじゃな。
当時、このことは、エームス・ショックといわれ、いろいろな議論が行われてきた。
事実、ガンを研究する多くの科学者は、ガンの原因の第一原因に「食べ物」を挙げている事実からもその影響度がわかる。 実はエームス教授は、植物の種々の化学物質(特にビタミンCやカロテン、フレバノイドなど)が、動物の体内の活性酸素を低下させ、より良い健康状態に保つということを、本業として研究されていて、その関係として、植物の化学物質のマイナスの効果も研究されたようなのじゃ。
エームス教授の約500本近い論文の多くは、活性酸素と抗酸化物質をテーマとされているんじゃが、きっと先生の言いたかったことは、植物の化学物質はヒトにとって、プラスとマイナスの側面をもち、その事実をリスクの大小としてきちっと理解することが重要だと、いうことではないかの。

クマ:なんとなく、分かるな。考えてみると、マイナスの側面の最も大きなものが、毒草で、プラスの側面の大きなものが食糧としての植物であり、また薬草ということなんだね。

Koby:いいこと言うな。まさしく、リスク・コミュニケーションのお手本のような事例じゃな。 また、この展開は、放射線のリスク・コミュニケーションにも似ている。つまり、今まで、知らないうちに少量浴びてきた放射線の影響を知らないことには、また人体の防御機構を理解しないことには、きちっとした放射線のリスク・コミュニケーションが出来ないのと同じことじゃな。

クマ:良く分かったけど、やっぱり重要なのは、プラスとマイナスの側面をどれだけ正しく評価できるのかということと、その理解で「安心」を得ることが出来るようなアプローチのような気がするね。

Koby:まさしく、その通りじゃ。



参考文献

Proc. Nad. Acad. Sci. USA Vol. 87, pp. 7777-7781, October 1990 Medical Sciences Dietary pesticides (99.99% all natural)* BRUCE N. AMES