風疹のリスクコミュニケーション

<クマ:自分の生い立ちを調べているクマムシ>

<Koby:一緒に調査している科学オタク>



Koby:最近、風疹の感染率が増加しており、特に、ワクチン接種を行わなかった若い世代で問題となっている。今回は、風疹のリスクについて、他のリスクと比較して解説しよう。

クマ:ちょうど、知りたったんだ。分かりやすく説明してね。

Koby:それでは、まず風疹になった場合の健康影響について。
風疹は、カゼと同様にウイルス(風疹ウイルス)に感染して発症する。図1に風疹ウイルスがヒトの細胞に感染し、増殖するメカニズムを示す。

 生き物はDNAとRNAという2種類の核酸を持っているが、ウイルスはそのどちら一方しか持っていなので(風疹ウイルスはRNAのみ)、自分では増殖ができず、増殖するにはヒトの細胞に感染してしか生きていくことができない。
 ヒトの細胞に感染し、自己増殖するときに、ヒトの細胞に悪影響を及ぼす。
風疹ウイルスの場合は、致死的ではないが、細胞分裂が阻害されることで、風疹の症状が出る。
体に抗体ができ風疹ウイルスが撲滅されると回復し、一般的には予後も良い。

しかし、細胞分裂が阻害されるので、妊娠初期の細胞分裂が盛んな形態形成の時には、その影響が大きく、胎児に先天性風疹症候群(心奇形・難聴・白内障:congenital rubella syndrome,CRS)を引き起こす。
風疹のリスクを、化学物質や放射線と比較したのが、下の表1じゃ。


表1  風疹と、化学物質/放射線の健康リスク比較
項目風疹化学物質放射線
特性点状の発疹が全身に広がり38〜39度前後の発熱が3日程度続くが予後は良好。妊娠初期の感染は胎児に先天性風疹症候群(心奇形・難聴・白内障:congenital rubella syndrome,CRS)を引き起こす。安全性が厳密に審査され基準が設定(致死量以上の摂取時は死亡)安全性が厳密に審査され基準が設定(致死量以上の被曝時は死亡)
リスク回避ワクチンによる予防が可能基準値以下の使用基準値以下の被曝
健康リスク妊娠11週〜16週までの感染では10〜20%にCRSが発症基準値は0.01%〜0.001%の発ガン率(動物実験の無毒性量へ1/100から1/1000の安全係数をかけて算出)1ミリシーベルトで0.005%の発ガン率(年間100ミリシーベルトのがん死亡は0.5%:国際放射線防護委員会)


Koby:化学物質や放射のリスクと比較して、どう考えるかは個人の考え方次第だが、妊娠初期の感染では10〜20%の胎児に、心奇形・難聴・白内障というCRSを引き起こす。一旦、器官が完成した7カ月以降の感染では、ほとんど影響は出ず、当然子供や成人の感染でも発疹と発熱が3日程度続くらいで、予後は良い。

 化学物質や放射線は、自分への直接リスクで、かつ多量に摂取・被曝すると致死的なので、リスクを過大に感じ、また風疹の場合は、妊娠初期の胎児への影響は計り知れないものがあるが、自分へ直接リスクは小さいので、リスクを過小にとらえる傾向があると言える。

 ここまで説明すれば、分かるように、妊娠初期の胎児にとっては致命的なリスクとなる。

 対策は、予防のためのワクチン接種が重要であることはいうもでもない。

 残念ながら、妊娠初期の女性が風疹になった場合は、羊水等から風疹遺伝子の有無を検出する方法で、判断するくらいしかない。

 また、心奇形・難聴・白内障というCRSが発症した場合でも、現在の医療技術で、かなりな治療(心臓奇形は軽症であれば成長とともに自然治癒、あるいは心臓手術。難聴は、自然治癒は望めないが保健適用の人工内耳を幼少期に埋め込む。白内症は人工レンズに手術で入れ替える。)が可能であるが、予防のためのワクチン接種が重要であることはいうもでもない。

 こういう本当のリスクコミュニケーションを行うことが重要だ。




風疹ウイルスがヒトの細胞に感染・増殖するメカニズム ruballa11

妊娠初期の胎児の様子 ruballa1


参考文献

モダンメディア 56巻9号2010「人類と感染症の闘い」
第8回「風疹」加藤茂孝
http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1009_03.pdf